の後、折があったらユカタを届けてやろうとその時だけは思ったが、祭礼の季節がすぎれば用のないユカタであるから、まったくユカタのことは忘れてしまった。ユカタは私の係りのマチ子サンという女中がセンタクして押入へ投《ほう》りこんでしまったのである。
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読売新聞は碁の方は呉清源を一手に握っているから、朝日の棋院大手合、毎日の本因坊戦に比べて、まさるとも見劣りのない囲碁欄であるが、将棋の方は他社の名人戦に比べて、勝抜き実力日本一決定戦(当時)などと云っても甚だ影がうすい。実力日本一といったって、名人戦があるのだから、名人即ち実力日本一。碁における呉清源のように公式手合に不参加の大家というものが居ないのだから、万人がそう認めるのは当然だ。単に実力日本一では影が薄いこと夥しいから、名人の名に対抗しうる権利の象徴が必要だ。苦心サンタン編みだしたのが、九段決定戦。
昔は九段を名人と云ったものだ。もしくは、名人は九段に相当するものと考えられていたのである。しかし現在も昔の形式を守らねばならぬという必然的なものがある筈はない。碁の方にも名人でない九段が二人もいるのだから、名人のほ
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