生を達観していて一向にクッタクがない。こういう豪傑然とした婆さんは珍しいが、抜けるところは甚しく抜けていて、いわゆる女将型のりりしいところはなく、ノンビリ落ちつき払っているだけなのである。
私が目をさますと風呂の用意ができている。一風呂あびて、婆さんと飲んだ。
私がモミヂから着て出たユカタは大男の私にはツンツルテンであった。
「ウチにちょうどよいユカタがあるよ」
と云って、婆さんが持ってきたのは、九段の祭礼用のお揃いのユカタであった。ちょうど九段の祭礼の前夜か前々夜に当っていたらしく、花柳街はシメをはりチョウチンをぶらさげていたのである。
「まだ私は手を通していないのだから。これならちょうどよろしいわよ」
という。なるほど、婆さんのユカタなら私に合うわけだ。五尺五寸五分とかいう大婆さんなのである。
婆さんと酒をのんで酔っ払い、じゃア、サヨナラと自動車をよんでもらって午《ひる》ごろ無事モミヂへ戻ってきた。私は着て出たユカタが変っているのを忘れていたのである。抜け作の婆さんも酔っているからそんなことは気がつかなかったろうし、気がついても気にかけることのない大先生なのである。
そ
前へ
次へ
全21ページ中12ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
坂口 安吾 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング