へ戻つてしまふ。
「私たち親子は倉田の悪党めの指金で教会に不義理を重ねたから帰るところがないんですよ。旦那すみませんけど、泊まらせておいて下さい」
「倉田のしたことなんか知らないよ。とつとゝ出て行け」

「ぢや警察の旦那の前で黒白をたゞしてもらひませうよ。私や損害をバイショウしてくれなきや、殺されてもこゝを動きやしないからね」
 そんなわけで、最上先生、ずるずるべつたり親子の妖怪変化と同居を重ねざるを得なくなつてしまつた。


   夜の王様

 全国的には七・五料飲休業、東京だけが六・一自粛、一足先に飲ン平は上ッタリになつてしまつた。ところが、こゝに、唯一人、ほくそゑんでゐるのが最上清人先生で、どうせ死ぬんだ、どうにとなりやがれ、ゆくゆく首をくゝる計画だから、右往左往の業者ども、禁令をどこ吹く風、お店の有り酒を傾けてゐると、絶えて客足のなかつたタヌキ屋に六・一自粛の当日から俄に客の往来がはげしくなつたから、物に動じない大先生も、果報は寝て待てと昔から言ふけれども、ハテナ、夢に見た蝶々がオレだか、今のオレが夢だか分るもんかといふ荘周先生の説はこゝのところかも知れないとボンヤリ疑つた始末
前へ 次へ
全163ページ中99ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
坂口 安吾 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング