といふのが、ヨッちやんの芸が終ると、勢ひの赴くところ、ソメちやんに露出を強要する。歌舞伎の伝統の中で女の躾を身につけたソメちやんだから二の腕を見せてもすくみ羞らふサムライの娘カタギ、それが一そう酔客のイタヅラ心をそゝつて、はては掴へてハダカにする。悲鳴、悲嘆、それを肴にカッサイ、また乾杯、勢ひの赴くところ、次にはヨッちやんをハダカにする、こつちの方は物ともせずタンカをきつて卓の上に大あぐらをかいたり大の字に寝てしまつたり、お客がこれにタバコをさしたり徳利を入れたりイタヅラする、お客同志のケンカとなる、大乱闘、倉田先生、器物を保護し、お勘定をいたゞくに精魂つくし、二ツ三ツ御相伴のゲンコなどもチョウダイに及んで、芸術的才腕の余地などはない。
 これが毎晩のおきまり行事で、それを目当に集る常連だから、ヨッちやんの芸が終る、そのへんで気分が変るやうにと倉田が顔をだして得意の駄弁、ナニワ節、フラダンス、熱演効なく、ひつこめ、あいつもついでにハダカにしちまへとくるから、匙を投げて長大息、お客の身になつたら面白からう、オレもお客になりていなどゝ芸術製作の熱意を失つてしまつた。
「先生、私はとてもこの
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