ソメちやんも承諾したから、ソメちやんとヨッちやん母子を住みこませ、玉川関に退場して貰ふ。万端最上清人の命令でなく、倉田支配人の指図によつて、これより万事店のことは新任の支配人が執り行ふから旧来の仕来りは一新する、店内の作法は支配人の許可なくして何事も行ふことはできない、天妙大神のゴセンタクも支配人にはミミズのタハゴトにすぎないのだから、と申渡す。
 同時に最上とお衣ちやんは温泉へ出発させ、二三週間ホトボリをさましてこさせる。そのうちにはオバサンを手なづけて、これを逆用して天妙大神とお衣ちやんの防壁にしようといふ、そのためにはヨッちやんと懇ろになることも辞せないといふぐらゐ倉田は悲壮な覚悟をかためてハリキッてゐる。
 倉田は温泉行の最上と別杯をあげて激励して、
「だから最上先生、安心してお湯につかつてきなさい。私の覚悟はいさゝか悲壮なぐらゐこの仕上げに打ちこんでるのだから。考へてもごらんなさい。それは私は色好みだから、ヨッちやんみたいな化け物でも一晩ぐらゐは面白からうといふ程度の心ざしはあります。しかしあなた、私の現在の立場ぢやアこれを一晩であしらふ手だてがむづかしい、九分九厘後腐れ
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