ながら、昔のゴヒイキ筋から品物をうけて飲み屋へくるヤミ屋にさばいたり、ヤミ屋の品物をゴヒイキ筋へさばいたり、それでくらしを立てゝゐる。しかし決して多額にむさぼらないのがえらいところで、千円ぐらゐでうけてきた品物が一万五千円ぐらゐに思ひがけない上値で買ひ手があると、三百円とか五百円とか予定してゐた口銭以外はそつくり売り手へ届けてかねての恩儀に報いるといふ心掛けである。ハタから笑はれ、そゝのかされても、いゝえ、義理人情をわきまへなくてはいけません、と言ふ。信念ミヂンもゆるぎがない。
 そのくせ完全な変態で、自分は全く女のつもり、二十三のみづみづしい若衆だから娘の注目をひくけれども、女などは見向きもしない。倉田はかねてソメちやんのキップが好きでヒイキにしてゐるが、ソメちやんもまた、倉田の生き方に筋の通つたところがあるから尊敬してゐる。これに手助けを頼みたいと思つたが、何がさて歌舞伎育ちの粋好み、義理人情に生きぬいてゐる珍品だから、御開帳の露出趣味と相容れず軽蔑するにきまつてゐる。こゝを納得させなければ苦心の演出ゼロになるから、
「これはソメちやん、江戸前の好みによつて悪趣味下品なるものと即断
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