に値打がある、さすればヨッちやんも救はれる、養命保身、これでなきやいけませんや」
お店の第一線で働いてみると、自分の方は案外ミイリがないから、玉川関一味のやり方にはフンマンやるかたなく、利益を独専したい気持がうごいてゐる。これを見抜いたから、仕事は楽だと見極めをつけた。
グロテスクがグロテスクだけで終始したんぢや魅力にならない。切なさ、明るさ、軽さ、どことなく爽やかなものを残さなくてはならぬもので、第一次大戦後の欧洲の前衛芸術は悲しいグロテスク、明るい軽妙なグロテスクがその主要な相貌であつた。これが近代知性の生活感覚の中軸的相貌でもある。ヨッちやんの芸は前衛芸術の宿命に通じるものがあるから演出次第でピカソやコクトオの芸術的放射能を現実的に発散できる珍品なんだと倉田は高く評価したが、ヨッちやん一つぢやグロテスクも悲痛すぎて暗すぎるから、もう一つピエロ的グロテスクのワキ役が必要だ。
倉田が目をつけたのは行きつけの飲み屋に食客をしてゐるソメちやんといふ色若衆で、昔は歌舞伎の女形であつたが戦争中は徴用されて工場へつとめ終戦後舞台へもどつたが生活が立たないので、近頃では飲み屋の手伝ひをやり
前へ
次へ
全163ページ中92ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
坂口 安吾 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング