から、礼儀も慎みもありやしないわよ。この子が恥をさらしてギセイで稼いでゐるものを、踏みつけてるぢやありませんか。この子はあなた、かほどの思ひをして、チップを貰ふためしもないのだからさ」
「さうさう。それだよ、オバサン。あなたはヨッちやんを因果物に仕立てる気分だから、いけない。お代は見てのお帰り、親の因果が子に報いてえアレだね、ヨッちやんを見世物にして露骨に稼がうてえ気分を見せちやア、お客は気を悪くします。いくらか置いてきなさいな、この子が可哀さうだわよ、そんなことをいつたんぢやア、これはもう全く因果物で救ひがない。お酒は粋でなきやいけないから、刺戟の強いサービスほど何食はぬ気分が大切なんだな。お店の成績が上りや最上先生からそれに応じて心附けがあるのだから、ヨッちやんのギセイを軽いオペレットに仕立てる心得がなきやいけません。しかしオバサンとしちや見るに忍びざる悲しさ、また口惜しさ、勢ひサイソクがましくもなるだらうからな、よく分る、ムリもないです。だからオバサンはお店へでちやいけない。玉川関のかはりにお勝手をやりなさい。いゝかね、オバサン、ヨッちやんのあの芸は、あれでチップをとらないところ
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