めしてから瞑想にふける。
何よりも店の繁昌、これをブチこはしたんぢや話にならない。お金といふ後楯《うしろだて》があつて紳士道も成立つのだから、天妙教と手を切る、そのために店がにはかに衰微しちやいけないから、それとなくヨッちやんの意中をたしかめてみると、ヨッちやんは天妙教など問題にしてゐない。住む家もなく、生活の心当りもないから、オフクロにひきずられてゐるだけのことだ。オフクロがまた我慾一方、人のために我身の損のできないタチだが、天妙教にすがつてゐると野たれ死だけまぬかれる、この目当は老いの身の頼みの綱だから、オイボレ廃人狐つきの集団生活、不愉快きはまるけれども教会を裏切られない。
「お米、醤油、ミソ、塩、油、バタ、砂糖、玉川関は色々とくすねて教会へ運ぶさうぢやないか。さもなきや子供づれのカミサン連が押寄せて食ひちらかして行くてえ話だけど、暴力団でさへ一軒のウチを寄つてたかつて食ひ物にするにはいくらか慎みや筋道はありさうなものぢやねえか。天妙教ぢやア、泥棒ユスリがなんでもねえのかなア、心持が知りたいもんだな」
「ふんとに倉田先生、私や辛いのよ。全くもう人間の屑のアブレ者がそろつてるんだ
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