か》に思案が見当らないから、事情をうちあけ、お衣ちやんも紹介に及んで、しかしこゝがカンジンなところだから、天妙教の手切りの件が眼目ではあるけれども、お衣ちやんを独専したい苦心の胸のうち説明に及んで釘をさす。
「これは最上先生、そんなふうに私を見損つちやいけないな。そもそも紳士道といふものは、こゝに唯一無二の規約がある。それはあなた男女たがひに誰を口説いてもよろしいけれども、友だちの思ひものだけ口説いちやいけません。あなたが麗人同伴で私の前に現はれる。そのとき私は最上先生の弟子であり忠僕であるごとく己れを低くして最上先生を立てゝあげる。かはつて私が彼女同伴最上先生にであつた時には、最上先生が私よりも薄馬鹿みてえに振舞つて私を立てゝくれなきやいけません。この一つが紳士道唯一絶対の規約なんだな。我々は紳士でなきやいけません。だからもうこと御婦人に関しちや私を絶対に信用してくれなきや、しかし、最上先生ほどの非情冷静なる御方がアノ子のためにはオチオチ眠られぬ、男といふ男が怖い、これはいゝね。まつたくホロリとするぢやないか。よろしい、犬馬の労をつくして差上げませう」
と、まづビールを五六本きこし
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