さいな。見ていたゞかなきや、分りませんわよ」
最上清人の気にかゝるのは、ギセイ、イケニエといふ穏かならぬ文句で、養命保身、天下は広大だから、どこに曲者がひそんでゐるか、偉大なる独創は得てして見落され易いものだ。こゝが大事なところかも知れぬと気がついたから、カストリ一升とりだす。婆さんもいくらか飲むが、娘が大方のんで、旦那もお飲み、と注いでくれたり、旦那私に注いでよ、一升がなくなり二本目を飲みだすころからトロンとして、
「バカにするない、私を誰だと思ふんだい、ヒッパタクヨ」
ふらふら、やをら立ち上つて正面をきり、手でモゾ/\前のあたりを何かしてゐたと思ふと、裾をひらいて尻をまくりあげ、なほも腹の上までゴシゴシ着物をこすりあげる。そして羽目板にもたれて股をひらいて片足を椅子にのせた。
「旦那、々々」
婆アさんは清人の肩をつゝいて、
「顔をそむけて、気取つちやいけないわよ。ギセイだよ。見てやらなきや、いけないわよ」
陰毛がなかつた。すきとほる青白さが美しい。局所を中心にして腹部と股に蜘蛛の巣がイレズミされてゐる。腹には揚羽蝶《あげはちょう》と木の葉がひつかゝり、片足の股の付根にカマキ
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