命保身、当店は宇宙そのものです」
「なるほど、すごい天才を見染めたものだな」
 と倉田博文大感服。
 そのとき居合はしたのが最上清人先生で、これを小耳にはさんだから、なるほど、オレも然らばこのへんで自殺はやめて、幸ひ店はまだ売れ残つてゐるのだから、オレも天才をさがして千客万来もうけてやらう。老いては子に教はれ、真理をうけいれるにヤブサカであつてはならぬ、と考へた。

          ★

 事は神速を尊ぶ、思案に凝るのは失敗のもとで、最上先生もとより事物のカンドコロにぬかりはないから、模倣は創造発見のハジマリ、ためらふところなく自分の近所の天妙教々会へでかける。なるほど、ゐる、けれども一癖ありすぎて、お客を吸ひよせるよりも追ひちらかす危険が多分にあり、養命保身、天才はざらにあるものではない。
 すると最後に教会のオカミサンが現はれて、一人づぬけた麗人がゐるのだけれども、家政婦なみに扱はれるんぢや、見せてあげられない。とびきりの美人なのだから、店の客ひきの看板娘に絶好で、通ひだつたら夕方五時から十時まで三千円、住みこみ五千円、但しこの金は月々前払ひで本人には渡さず教会へ届ける。戦災者
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