がどんなに酔つてもどんなムリも起すことがないといふ、宇宙なるかな、偉大なものではないですか。もと/\お客は貧乏にきまつたもので、お酒のお代りは、とか、召上り物は、とか、脅迫しちやいけないのです。自分のふところは十分以上に心得て、何杯のめる、残る一円五十銭が電車賃、覚悟もりりしく乗りこんできていらつしやるから、コップがカラにならうと、オカズの皿がカラにならうと、全然見向きもしてはいけません。そのくせ不愛想ぢやア俺のふところを見くびりやがる、ヒガミが病的なんで、全然衰弱しきつていらつしやるですな。だから酒場のオヤヂは目のおき場所からしてむづかしいや。人間業ぢやア、ダメでして、まさしく天才を要するものです。聴音機のオバサンときては、目の玉はどつちを見てるか見当がつかない、ナメクヂの往復で静々と必死多忙、全然お客は脅える余地がないどころか、金満家みたいにせきこんで、オイ早く、カストリ、なんて、これはいゝ気持だらうな。すると、あなた、ナメクヂの方ぢやア必死なもんで、目の玉のゆるぎも見せずヘーイと答へる、お客のハラワタにしみわたりますよ、積年の苦労、心痛、厭世、みんな忘れる、溜飲も下るでせうな。養
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