で衣裳がないからタヌキ屋でもつ。それから月給前払ひのほかに保証金一万円ゐるといふ。
「通ひ三千円、住みこみ五千円、と。変ぢやないかな。あべこべぢやないのかな」
「分つてるぢやないの、旦那。とびきりの美人よ、分るでせう」
「ハハア。なるほど。とにかく会つてみなきや」
「ですから旦那、私の方の条件はのみこんで下さつたんでせうね」
「あつてみなきや分るものぢやないですね」
「それは会はせてあげますけどね、とにかくスコブルの美人ですから。でも、ちよつとね、ゆるんでるのよ」
「何が?」
「こゝね、ネヂがねえ、見たつて分りやしないわよ。あべこべに凄いインテリに見えるんですから。だから、あなた、今まであの子にいひ寄つたのが、みんな学士に大学生よ。あの子がまたおとなしくつて、惚れつぽいタチだもんで、すぐできちやつて、結婚して、それでもあなた八ヶ月もね」
「八ヶ月で離婚したの?」
「さうなんですよ。男がよくできた人でね、両親がなくつて婆やがゐたもんだから。そのほかは大概一週間から三日、一晩といふのもありましたけど、でもあなた、みんな正式の結婚よ。親がシッカリ者だから、みだらなことは許しやしません。戦災し
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