は、アラ、マダムの着物を質においたお金でゞすかと言ひ、お店を持たしてあげやうと言つた相手は、三十万ぐらゐなきやダメよ、とニヤニヤてんで取り合はない。温泉へ行かうと誘つた相手は、私もう温泉へ一緒に行く人あるのよと軽く一蹴されてしまつた。
世界に女が五人だけしかゐないわけではないから、最上先生、驚きもせず、金さへありやアいゝんだ、倉田の言ふ通り、豊かでないのが知れてゐるからかうなるので、女房の着物をはいでミヂメなところを見せたのなんぞは特別まづかつたが、本当に金も欲しかつたんだから仕方がない。クヨクヨすることはない、奴らが揃つてその気持なら、こつちは奴らに稼がせて儲けて、儲けた上で、美人女給は広告一つで集つてくる。マスターの口説は柳に風のくせに、みんなそれぞれ二三人はいゝ人ができてよろしくやつてゐることが知れてゐるから、そねむ心は仕方がない、それならそれで、いゝ人のふところからしぼつてやるまでだと、
「よそぢや、ビール一本二百円から二百八十円で売つてるから、うちは明日から百九十円にするんだ」
とそれだけ言ひすてゝ寝てしまつた。富子も困つて女給に相談すると、女給もそれぢや気の毒で客にすゝ
前へ
次へ
全163ページ中43ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
坂口 安吾 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング