借り着に及んで店へでたが、富子のやうに金銭にやつれてしまふと、借り着まで如何にも借り着といふやうに板につかなくなつてしまつて、心に卑下があるから、その翳がそつくり外形へ現れて、どことなく全てに貧相で落附きがない。
 それになんとか二号の口にありつきたいといふ身にあまる焦りがあるから、いかにも哀れに、いやしく、飢え果てゝガツガツした感じがつきまとひ、昔の颯爽たる面影はなくなつてゐる。
 知らないお客はとてもこれがマダムなどゝは思はれず、最も新マイの半分色キチガヒではないかなどゝ思ふほど、落附きなく、アハヽと笑つたり、オホヽと笑つたり、妙に身体をくねらせてニヤニヤしたり、この人の本来を知る者にとつては、まことにどうも見るに堪へない。
 かうなつては宿六たるもの女房が蛆の如くに卑しく見えるから、顔を見るたびに出て行け、としか言葉がない。五人の女給を代りばんこに口説いてみたが、フゝンと笑つて逃げたり、アラいやよ、すましてくるりと振向いたり、いけませんよ、と叱られたり、見事に問題にならない。
 次には手を代へて、改めて代りばんこに話を大きく持ちかけてみたが、着物を買つてあげるからといつた相手
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