とイナゴの方からウナギやエビへ応用をきかせるわけにはいかねえだらう」
「次第に間に合ふものですよ。まア、たべて見てごらんなさい。兵隊は食通です」
「そんなものかな。俺は知らねえけど、危ねえもんだな。それに君、最上先生は君に充分の報酬をくれる筈はないのだから」
「いや、よろしいです。こつちは闇屋渡世でほかに儲けの口はありますから。料理の手腕で、今までのコックが三十円の原料で五十円の料理を作つたものなら、僕は十五円とか十円で五十円の料理をつくる。その差額でタヌキ屋のカストリ焼酎を四五杯のんで引き上げてきて、眠るですよ」
「その思想はよろしい」
といふので、コックもできた。そこで店には美形が七人居並び、楽屋にはコック一名、このコックが、いつたい哲学者は浮世離れがしてゐるなどゝは、いづこの国の伝説だか、彼が又実に発明、ひどい奴で、よそのうちのハキダメから野菜だの何だの切れはしを拾ひあつめてマンマとお客に食はせてしまふ。そこは哲学者だから、天機もらすべからず、腹心のマダム、女給にも口をぬぐつて、ひそかによろしくやり、毎晩カストリ七八杯傾けるだけの通力を発揮してゐる。
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