が違ふんだ」
「いけねえなア、さう、ひねくれちやア。最上先生の思想が如何に地べたに密着して地平すれすれに這ひ廻るにしても、人間が国持大名を望む夢を失ふといふことはない」
と倉田が慨嘆してみても、彼はアクビひとつせず、俺は貧乏な大学生が下宿の娘とうまくやるのが羨しいのだ、とうそぶくのだから手がつけられない。
だから彼はもう軍師の情熱を失つて、オコウちやんにも、もう止しなさい、あなたがいくら働きを見せたつてそれに報いてくれる人ぢやアないんだから、ムダですよ、と言つたが、オコウちやんが又奇抜な娘で、いゝえ、私はもうそんなのが目的ぢやアないのよ、五人の女給さんに一泡ふかせてそれからやめるわ、それまで、ゐるから、と言ふ。知らねえや、勝手にしろ、と倉田はもうタヌキ屋の方へはめつたに現れず、東奔西走、持ちつ持たれつ家老の口といふ奴をあちらこちらに口をかけて極めて多忙にとび廻り飲み廻り口説き廻つてゐる。
倉田は富子の涙話に長大息。
「そいつは、いけないねえ。それでも思ひとゞまつて、しあはせですよ。アッパッパで、小さくなつて、私を二号にしてちやうだいよ、なんて、それぢやア、あなた、闇のチンピラより
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