がないが、当つた時には報酬を払つてやらねばならん。かういふ智恵の行商人、智恵の闇商人といふものを巧みに利用するのが、金銭を解する者といふのだ。信長だの秀吉てえ人々はかういふ智恵の闇商人を善用した大家なんだな。ここの理窟を解さなきやア」
「僕は解さないね。僕には信長や秀吉ほどの夢はないからさ。夢は負担だね。僕の限度と必要に応じて取引するだけで結構ぢやないか」
「だから、それがだよ。限度だの必要に応じてと云つたつて、そんな重宝なものがどこにありますか。失礼ながら、最上先生は必要に応じて取引して所期の目的を達してゐますかな。猿面冠者《さるめんかじゃ》が淀君を物にするには太閤にならなければならなかつたが、むろん太閤だつて蒲生氏郷《がもううじさと》の未亡人や千利休の娘にふられる、だから本当の限度はきりがない。けれどもともかく狙つた女の何割かは物になるてえ限度はあつて、この限度はつまり国持大名だな。これを今日で言ふと、恒産あり、といふことだ。失礼ながらタヌキ屋の御亭主は未だ一城一国のあるじとは申されませんな。足軽ぢやアねえかも知れねえ。ともかくタヌキ屋てえノレンの亭主なんだから、三四十石とりのサム
前へ 次へ
全163ページ中37ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
坂口 安吾 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング