だのといふものは、まだ殿様の先例がないから、殿様の手口にかゝる御仁のタネはつきないけれど、紙に限つて、これはもう、きかない手口ときまつてるんだがな。だから、あなた、ヤミ屋さんも、紙に限つて、近頃はもつぱら新手できますよ。ヤミ屋さんには紙が有り余つてゐるんだからな。そこであなた現品を山とトラックにつみこんで、ピタリと亡者の店先かなんかへ、これを横づけにするです。現品取引だから、安心しますよ。よつてお金を渡して品物を受取る。するてえと、あなた、翌日カラのトラックへ役人みてえな奴が五六人乗りこんできて、昨日の紙をそつくり持ち去つてしまふです。つまりその紙は売買の品物ぢやアない、封印された品物で、世耕指令だか何だか知らないけれども、テキハツのきかない物品だとか何とか言ふんだな。むろん、これは一組のサギ団ですよ。サギてえものは、サギを封じる手段を弄すると、そいつが逆にサギの手段にされちまふから、これはあなた古今東西、かくの如くにして文明の進歩はキリがないです。私の知りあひの喫茶店と古本屋と質屋を営業して今度出版屋を狙ほふてえ新興財閥のイナセなところが、見事にこれにかゝつたです。かういふ新手にかゝ
前へ 次へ
全163ページ中152ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
坂口 安吾 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング