て、位の意識といふものが、にわかに激しく角をだす。
「実は紙を六百連買ふ約束をしたんだ。もう今日にもトラックが来る筈なんだが」
「ハハア。するてえと、あなたは六百連の紙代をヤミ屋さんに渡した、然し、得でども、いまだ紙来たらず、といふわけなんだな」
 カンのいゝ奴だ。一応の急所は忽ち見破る。然しトラックで運んできて、又それをトラックで持ち去られたといふ面妖なイキサツまでは気がつく筈がない。
「マア、さうだね。然し、そのうち、くるだらうさ。現品がちやんと在ることは分つてゐるのだから」
「それはあなた、現品はちやんと在りますよ。紙屋の倉庫にや、いつだつて紙は山とつまれてゐるにきまつてるぢやありませんか。然し、あなた、その紙は紙屋の物ではないですか。ヤミ屋の物ではないですよ。古い手ぢやないか。終戦以来、ヤミ屋の最古の手口だからね。狸御殿といふ殿様の手口ぢやないか。あの殿様の御乱行以来、紙に限つて、まさか日本に、同じ手口にかゝる御仁があらうとは、私は夢にも思はなかつたね。なるほど、こゝの店もタヌキ屋てえ名前だけれど、してみると紙と狸は因縁があるのかな。それは、あなた、洋服だの、キャラコだの、砂糖
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