をだしたいやうな気がする。五分と枕に頭をつけてゐられず、いくら枕をとりかへてもダメ、枕の中に小石がまじつてゐるやうな堅い突起の手応へであるが、起き上つて枕をしらべると、枕のせゐぢやない。後頭のせゐなのである。後頭はとりかへるわけに行かない。
戸をたゝく奴がゐる。昼間戸をたゝく音をきくと、一時に血が頭へ上つて、ハズミに身体が宙へとびたつ思ひがするのは、木田を待つ思ひの強さが胸にかくれてゐるせゐで、然し、やつてきたのは倉田博文であつた。
「ナンダ、君か」
「ナンダ、君かつてアイサツはないでせう。まさか、ヘエ、私です、と言ふわけにもいかねえだらうな。然し、そんなとき、ヘエ、私です、と答へるのも面白えかも知れねえな。時にゴキゲンは相変らずで、実は小々本日は話の筋があつて」
「もうダメだよ。元伯爵には用はないんだ。僕はもう、スッテンテンにやられちやつたんだから」
「スッテンテンとは、何事ですか」
思へば倉田博文はかういふ時にはチョウホウな男であつた。忘れてゐた感情がふと胸によみがへつて最上清人はなんとなく涙もろい気持になつたが、一度大名となつた以上は、おちぶれても、おちぶれられない。逆に却つ
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