ですよ。万事ヤミの品物はたいがいそんな物でして、あいにく、あなた、運転手に鼻薬がなかつたもんで、そこからバレちやつたのですよ。まつたく一代の失策です。いえ、必ず、紙は又、おとゞけします。いえ、紙ぐらゐ、どこにでも、何方連、山とありますから、そのうち、ちよいと、又、トラックで横づけに致しますから。それでは今日は急ぎますから、いづれ三日ほどあとに、いえ、お詫びにくるわけぢやありません、現物をつみこんで横づけに致しますから。どうも、本日は、すみません。では」
待たしておいた車で、風の如くに消え去つてしまつた。お金を返してくれといふヒマなどは全然ない。サギだか過失だか、見当をつける余地がないから、万感胸につまり、アレヨと見るまに取り残された自分の姿があるばかり。
「ラツワンだね、マスターは。紙の山がもう消えちやつたワヨ。気にかゝるワヨ、百四十四万円すると、マスター二百万ですか。アタクシは二十個のピースがまだ昨日から売れ残つてをりますんで、ヘエ」
「昼間は当分店をしめるからチンピラ共はどこかで遊んでゐろ」
パンパンやチンピラをしめだして鍵をかけて、たゞ一人、黙々とウヰスキーを飲んでゐる。三日
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