かまへて、ダンパンしたまへ」
 それから、ドタバタ、店中をひつかきまはして紙を全部つみこんで、ヤアとも言はず立ち去る気配だから、
「オットット、お待ち下さい。いつたい木田さんは警察にあげられてゐるのですか」
「別に警察にあげられやせんよ。なぜ?」
「なぜつて、ぢやア、あなた方、なぜ私の買つた紙を持ち去るのですか」
「だから君も、わけが分らない男だな。闇の紙をシコタマ買ひこむ狸のくせに、いゝ加減にしろ。さつきから言つてるぢやないか。この紙は売つたり買つたり出来ない性質の紙なんだ。あの野郎、人の目をチョロまかして持ちだしやがつて、だから君はあの野郎とダンパンすりやいゝんだ。どうせヤミスケの動かす紙は曰くづきにきまつてらアな。それぐらゐのこと、君も覚悟がなくちやア、だらしのない男ぢやないか」
 叱りとばされ、目玉を白黒するまもなく、トラックは角をまがつて消えてしまふ。皆目わけが分らない。
 するとその日の暮方になつて木田市郎がタクシーでのりつけて、
「どうも、あなた、すみません。実にどうも、とんでもない手落ちで。なに、あなた、あれでどこへ売つちまつたか売先が分らなきや、話はそれなりになつたん
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