、単に紙の山だけではない。今にやがて、あらゆる物の各々の山がズッシりとすべて彼の所有となつて残ることになるだらう。
彼はフンといふ軽蔑しきつた顔をして、クルリとふりむいて紙の山に訣別した。たかがこれしきの紙の一山! 考へることの一々があんまり豪放なもので、彼はてれて、クツクツ笑つた。そしてひとつ退屈さうに背延をして、裏口をあけて一人コツコツ街へ消える。マーケットでコーヒーのお酒をのんで、いつまでもクツクツと喜悦の笑ひが心持よくつゞいてゐる、まつたく、どうも、物質の充実、これは驚くべき充実だ。
彼はウットリした。
★
翌朝、仙花紙の山の谷間のやうなところでグッスリねむつてゐると、朝つぱらからヤケにドカ/\戸をたゝいて、はてはどうやら蹴とばしてゐる奴がゐる。
起き上つて、表へ廻つて戸をあけると、もう初秋だといふのに、まだヘルメットをかぶつて鼻ヒゲをたくはへたふとつた男がヌッと現れ、
「ヤア、コンチハ」
言ふと同時に土間につんだ仙花紙を見つけて、ヤヤと叫んで、ふりむいて、
「あゝ、ある、ある。やつぱり、こゝだぜ。みんな、こい」
見ると表にトラックが横づけに
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