、つかまつてしまふから。こんなに汗をかきましたよ。それ急げてんで運搬のお手伝ひまでするもんですから、逃げ足もいる、ヤミ屋渡世は一に筋肉労働で。市価は二千五百ださうですけど、二千四百でお譲りします。もう御用は済みましたか。なにしろ、いつはいるといふ予定のたつ仕事ぢやないから、皆さんに御迷惑をおかけしますよ。では、先を急ぎますから、いづれ又、後ほど」
最上清人は、まア、ちよッと、と引きとめて、
「六百連ですね。こんなチッポケなウチぢやア、置き場所の始末がつくかな。ともかく譲つていたゞきませう」
「さうですか。かうして現物がちやんと横づけになつてるなんて取引は当節めつたに見かけない珍景です」
「どうもありがたうございます」
居合せたサブチャン、ノブ公その他それといふので運びこむ。居間につみあげ、残りを座敷と土間の客席の隅へもつみあげる。
「アラマ。百四十四万円。電光石火、アレヨアレヨといふヒマに稼いで消えてしまつたわヨ。アタクシもヤミ屋のハシクレだけど、ピース十個握りしめて、イヤンなつちやうな。せめて自転車一台ぶんのピースをまとめて売つてお金が握つてみたいワヨ。アタクシの切なる胸のウチ」
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