分りました。その話はもう止しませう。時に先生、私にもお酒とかビールぐらゐは売つて下さいな。たまには世に稀《めずら》しい高価な酒も飲んでみてえな」
「売らないね」
「アレ、ひどいな、この人は。いつごろから、そんなことも言へるやうになつたのかな。稼ぎといふものはコマカク稼ぐところにも味があるもんだけど、こんなことを言ふから、私はもう新時代ぢやないてえことになつてしまふんだな。然しあなた、野武士時代といふものは今日始めてのことではないです。野武士の中から新時代の新人もたしかに現れてくるけれども、極めて小数の心ある人物だけで、荒稼ぎッぱなしの野武士といふものは流れの泡にすぎないです」
 倉田は立上つて、
「ぢやア、最上先生、先刻の話、例の元伯爵、兄小路キンスケを明晩つれてくるてえ話は中止としませう。ぢやア、また、近いうちに、いづれ。ハイ、ゴメン」
 と帰つて行つた。
 するとそれからものの三日もたつたころ、お午《ひる》すこし廻つたころ木田市郎がトラックで乗りつけて、
「とつぜん仙花がはいつたから六百連ほど持つてきましたけど、どうなさいますか。ザラもあつたんですけど、これを所持してウロツいてると
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