悪になるとき、色々で、然し酔つ払ひはみんな大言壮語、自慢をはじめるものであるが、この男ばかりは自慢といふことをやらぬ。自嘲ばかりだ。その代り人を皮肉り、いやがらせる。そして、必ずエロになり、富子を客席の側へよんで膝へのつかれと言ふ。膝へのつかると、あとはセンチな唄を唄ふばかりで別に何もしないのだが、然し富子は外のお客がゐる前でも、言はれると下のくゞりをくゞつて、膝へのつかりにノコ/\出向くから、お客が減るのも当然だ。富子はもうヤブレカブレなのだ。金々々、色だか金だか見当もつかないムシャクシャした気持で、瀬戸さへゐなければ外のお客の膝の上にも乗つかつてチップにありつきたい、然し瀬戸に知れると困る、実際は瀬戸の膝にのつかることではお客は減らず、却つてこれは脈があると、瀬戸のまだ現れぬ時間、なぜなら瀬戸はいつも九時半すぎてくるから、早めに来て、オイ俺の膝にものつかれと言ふ客がたくさんある。お客が減るどころか、却つてそのために一応お客はふへるぐらゐだ。けれど酔つ払ひはブレーキがないから、味をしめて瀬戸のゐる時にもやられると困ると思ふから、大いにチップにありつきたくて仕方がないが、どうにもダメで
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