にはヘソクリを見せろ、少し貸せなどゝ云ふけれども、富子のチップは意外に少く、一月分を合せても瀬戸の一夜の飲み代の半分にも当らぬぐらゐ、そこで万やむを得ず外のお客に法外の代金をつける。それでお客がめつきり減つて、もうゴマカシがつかなくなつた。瀬戸一人の借金を十人ぐらゐの名前にわけて宿六の罵倒脅迫暴力を忍んでゐたが、急に借金の客がふへる一方、売上げがぐんぐん減るから、もとより清人は人一倍鋭敏、これは臭い曰くがあると思ひ、自分は知らぬ顔をして、旧友の一人にたのんで、お客に化けて行かせ様子を見て貰ふ、この旧友が然るに意外のその道の達人で、五日通ひ、瀬戸も絹川の顔も見て、なぜ客が減つたか法外な値段の秘密、みんな隈なくかぎだした。然し胸に一計があるから、すぐさまこれを打ち開けなかつた。
富子はもうセッパづまつてゐた。宿六には秘密で誰かに身をまかせてお金をかせいでごまかすか、瀬戸とカケオチするか、瀬戸に心がひかれるけれども、絹川の男つぷりも捨てられないところがある、といふやうな気持もある。
瀬戸はいさゝか酒乱で、泥酔すると、狂暴になるとき、陰鬱になるとき、センチになるとき、皮肉屋になるとき、意地
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