金とりに日参させ、現金でなければ飲ませないと言明せよと脅迫する。まつたく脅迫で、一度でも借金したら、必ずさう言明しろ、借金の支払はれるまでお前の食事を半分に減らせとか、お風呂へ行く小遣ひもくれない。
けれども富子はなんとかして瀬戸には毎晩来て貰ひたいから、この借金は清人に知らせたくない。清人は深夜に帰つてくるから店のことは知らないが、朝目がさめると前夜の酒の減り方をしらべて売り上げと合はせ、綿密に計算してみぢんもごまかす隙がないから、富子はどうしても外のお客に高く売つてツヂツマを合せたいが、瀬戸の酒量が大きすぎて、とても埋合せがつきかねる。
スタンドだからチップを置くといふ客もすくなく、おまけに清人が小遣ひをくれず、チップを稼げ、それが腕だ、それで小遣ひをこしらへろ、酒場で働く女のくせに遊んで暮すチップもかせげない奴はバカだと言ふ。一晩に千円のチップを置く奴には接吻ぐらゐさせてもいゝし、一万円おく奴には身をまかせてもいゝ。その代り、接吻と身をまかせたチップは俺が貰ふ。なぜなら俺は亭主だから、女房の貞操を売るのはお前でなくて俺なんだから、と言ふ。清人は相当チップがあるものと考へて、時
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