。筋のないところで魔法的なビヂネスを愉快にやりとげ、たのしく遊んでゐる新時代の新人だけがたのもしく見える。政治屋だの社長などゝいふ型通りの商売人は家庭でヤリクリ算段の女房みたいなもので、闇ブローカーといふものは定まる家もなく定まる商売の筋もないパンパンガールのやうなもので、人生到るところ青山、青空、愉快な人間に見えるのである。
最上清人と哲学との関係はこゝに到つて全てが明白となつたが、まつたくこれはたゞバカバカしいものであつた。彼はたしかに哲学者であつた。彼が哲学者であるとは、人間を裏切るといふことであつた。
彼は昔は貧乏であつた。だから哲学者であつた。富も権力も持たなかつた。だから哲理といふ代用品で間に合せてゐたわけで、彼の哲学は彼のゐる場所とか位置のものであり、彼といふ「人間」のものではなかつたのである。
だから場所や位置が変ると、哲学も変る。人間によるものぢやない。
貧乏してクビをビクビク安月給で働いてゐたころは、人間は孤独なものだと考へ、死にや万事すむんぢやないか、さう考へてゐたのはツイ先日までのこと、だから内心ビクビクしても案外傲然空うそぶいて課長を怒らして常に後悔に
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