リによるのだらう。つまり彼等自身が骨の髄からのチャッカリ屋で、現物を見ずに取引する不安の心理を知りぬいてゐるから、逆に現物を見せずに取引する手段、コツ、無限の工夫を案出することもできるわけだが、要するにサギ師なのである。然し彼等も現物を見ずに取引するから面妖で、平気でサギにかゝるのである。といふのは、自分もサギにかゝる代りに、そのネタによつて更に多額のサギをはたらく見込みをつかんだからで、サギ師とサギ師の取引といふものは禅問答以上に専門的で不可解きはまるものであつた。
 世耕情報といふものがある。彼等はそれと直接何の関係もないけれども、それをキッカケに無数のカラクリを案出して儲ける手腕をもつてをり、サギにかゝつた本人をのぞけば、彼らは誰に対してもインギンで、親切で、善良だつた。
 彼らはみんな若かつた。二十七八、三十前後、どこの馬の骨だか分らない通俗的な顔をしてをり、事業家の顔でもなければ政治家の顔でもない。サギ師の顔でもないのである。そして千差万別だつた。
 木田市郎はいかにも身だしなみのよいセールスマンといふ様子で、女性的なざらに見かけるタイプであつたが、シサイに眺めると讃美すべき
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