ッと」
「もう、いゝよ、分つたよ」
「ちよッと、手相を」
今度は天眼鏡で、つぶさに見究はめて、
「下の下だ。仕方がないんだなア。あなた、お告げに見捨てられたのは、あなた御一人ですよ。さうなる以外に仕方がない。あなた、然し、どうでせう。養神道の道理に就て、すこし、心をみがゝれては。私が手ほどき致しますが、養神様からも毎日一言二言おさとしがある筈です。このまゝぢやア、あんまり、お気の毒です」
「養命保身かい?」
「それもあります。一言にして云へば、クスリ、すべてを治す、ですから、クスリ、養神様はあなたを見捨てたけれど、あなた、見捨てられちや、いけません。もう一度伺つてごらんなさい。伺ひなさい。あなたに伺ふ心が起れば、見捨てられない証拠です。伺ひますか。いかゞですか」
「ふん」
清人はひやかしてやる気持になつた。それで、ふらりと、再び養神様の前に立つ。
「お坐り」
清人はあぐらをかく。
「よい子になつた。今にだんだん坐るやうになるよ。今日はお帰り。又、おいで。信心のはじまりは、そんなものだよ。叱りはせん」
清人は外へでゝ背延びをしたが、養神様はほんとに何か通力があるのかも知れないとい
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