はルンペンなんかにある手相で、ルンペンだの失業者だの生活能力のない人間は、みんなこれと同じやうな智能線でして、あなたの手相が示してゐるものはルンペンにすぎないのです。その上、無理をして、損をする、ルンペンであり、更に又、没落の相がある、ルンペンの相と没落の相と両方あるといふのは、いかにもヒネクレた手相だなア。これは奇怪なまでに悪の悪、これほど下等な手相は殆どない。私は始めてゞす。全然無智無能、人間の屑、屑の屑、ルンペン以下、いつたい、そんなのが現実的に在りうるのかな。これは奇怪そのものだ。ちやうど番がきましたから、見ていたゞきませう。さア、どうぞ」
 奥の間に羽目板にもたれて、ウツウツと居眠るやうに坐つてゐるのが、聴音機のオバサンであつた。明るい花模様のヒフをきてゐる。
「あなた、たゞ、坐つてらつしやい。何も仰有《おっしゃ》る必要はない。用件も、万事わかつてゐらつしやるのです。すでにもう、あなたと同化してゐらつしやる、お告げがあるまで、お待ちになつて、ゐらつしやい」
 と、仙境の人は、神の坐にはたまらぬ如くにソソクサと引き下る。
 聴音機のオバサンは一|米《メートル》一五しかない。ビッ
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