オレ刑務所へ行つてきます」
 とサブチャンが決心に蒼ざめて、言ふ。出世の手蔓を人にとられちや大変だから、いさゝか、せきこんでゐる。王様は無言、懐口のズッシリふくらんだ財布から五千円つかみだして、握らせる。
「アレ、目の毒だわよ、マスター。アタクシも忠義したいのよ、イケマセンカ」
「いづれ何か頼む時もあるさ」
 五枚、ノブ公に握らせてやる。
「エヘヽ。健康を祝します。一本、いかゞ」
 チョッキのポケットから別のシガレットケースをとりだす。こつちのケースには更に上等のシガレットがつめこんであつた。

          ★

 落合天童は六・一自粛、政府の決意たゞならぬことを見とゞけたから、裏口営業などゝいふケチな稼ぎは考へない。
 ちかごろマーケットに養神道施術といふアラタカな仙術使ひが現れて、占ひもやる、病気も治す、身の上相談にも応じる、尚その上に宗教の信心を説いて、教理がまことに的確深遠であるといふ。大へん評判が高くなつて、遠いところから遥々《はるばる》くる人もたくさんある。身のふり方、お金もうけ、商売繁昌、神様の心にふれると、色々の方面にわたつて、惜しみなく御利益を下さる。
 こゝ
前へ 次へ
全163ページ中122ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
坂口 安吾 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング