のクリクリした丸顔のいつも陽気で、これ又いつもニコニコしてゐる愛嬌者だが、こつちの方は血のめぐりがよく、商売上手なところがある。
「サブチャン、いゝねえ。アタクシも一口、マスター、オタノオします、ヘエ」
「君はダメだよ。未成年者ぢや、警察が相手にしやしないから」
「でも、マスター、アタクシも支配人の見習ひぐらゐに、ゆくゆくは支配人に取りたてゝいたゞきたいので。刑務所ならアタクシが身替りに参りますよ。御礼なんぞはサヽイでよろしいので。もつぱらアタクシ将来の大望に生きてをりますので、ヘエ。マスター、一本、いかゞ」
 と、胸のポケットからシガレットケースをとりだして、上等なるタバコをすゝめる。追つかけてライターの火を慇懃《いんぎん》にすゝめる。如才がない。
「君のうちは何をしてたの?」
「ヘエヽ。マスターも人が悪いな。こんな時に身元調査は罪ですよ。アタクシのオトッチャンはたぶん男だらうと思ひますけど、それを訊いちや罪でせう。オッカチャンは洋食屋を営業致してをりました、露店なんで、トンカツ、三十銭、こんなに厚い。でも、隣のトンカツにくらべると、ココロモチ薄いんで、女はなんとなくケチでして」

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