で、いつもニヤニヤ思ひだし笑ひをしてゐるサブチャンといふお人好しに、最上先生が目をつけた。
「サブちやん、たのみがあるんだがね」
「ヘエ、マスター」
「サブチャンを見込んで頼むのだけど、僕の片腕になつて協力して貰へないかな」
「アハハ。オレなんか、ノロマで、ダメだよ」
 カポネ親分なら、こんな時にカミソリよりも冷酷に死刑宣告的な用件を至上命令的に、きりだすだらうと考へたから、彼も亦、カポネ風にきりだした。
「タヌキ屋の名儀を君にゆづる。名儀料は月々五千円だす。そして、手入れがあつた時は、君が責任を背負つてくれる。罰金だけで済まなくて刑務所へ送られた時は、当座の謝礼に五万円、刑期が終つた時は、この店の月々の利益の半分は君のものだ。同時に君はこの店の支配人であり、僕のあらゆる事業の最高の相談相手、会社なら、副社長といふところだね。承知かね」
「ハア」
 サブチャンは呑みこみが悪いから全然ポカンとしてゐる。そこでユックリ、かんで含めて説明をくりかへす。
「ナルホド、へえ」
「名儀料の月々五千円は今日からあげるよ」
 そのときサブチャンと一緒にノブ公といふ最年少、十八の少年がゐた。五尺そこそこ
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