無学のパンパンどもの臍をまくつたドグマチズムに驚くことはないのだとタカをくゝつてゐる。
彼は然し思索癖の哲人に似合はず、きはめて現実的な実際家でもあり、富子を口説くときも、天妙教へ乗りこむ時もさうであつたが、かういふシニックな御仁は年と共に浪曼的に若返へるもので、彼が大学生の頃は鼻先で笑殺した筈の夜の王様の想念に、内々極めてリアルな憑かれ方をしてゐる。それといふのが大学生には女の肉体は夢想的なものであるが、四十男の最上清人に於ては的確に想定せられた肉体自体と好色精神の、夢といふものゝミヂンもない現実の淫慾があるのみだ、といふ、さういふ原理によるのであつた。
そこで彼は夜の王様の現実的な把握のために神を怖れぬ不敵の一歩をふみだしたが、パンパンどものアミだか、配下だか、マネヂャアだか、パンパン共の口添へでタヌキ屋の仕入れ係をつとめてゐる五名のチンピラ、十八から二十二までの赤ネクタイの少年紳士、まつたくこの連中は食ふことよりもポマードだのワイシャツ、靴、靴下などに有金の大部分を投じてゐるとしか思はれない愛嬌のある国籍不明のマーケット人種、その中で最も図体が大きくて、ノロマで、ニキビだらけ
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