ケチな小パンパンへの情慾を、豪奢な大パンパンへの夢想によつて瞞着する。
「あつちのウチぢや、酒と料理の外に、麻雀、碁将棋、トランプ、花フダ、遊び道具を取り揃へてお客が自分のクラブのやうに寛いだ落つきをもたせるやうにするんだな。お風呂をつくつて朝から夜中までわかすんだ。その代り、特別よりぬきの上客だけに限定して、その連中だけ、とつかへ引きかへ遊びにこなきやならないやうな気分をつくらなきや、いけない」
「アラ、いけないわよ。クラブのやうに心得て勝手にノコノコやつてこられちや、お客がハチ合せしちやうわよ。そこでなきやならないなんて、きまつたウチは窮屈さ。街で拾はれなきや、第一、気分がでやしないや」
 青天井が骨の髄まで泌みてゐる。夜の王様の構図の如き、蔑むべき、卑小きはまる、家庭の模倣にすぎないのである。たぶん彼女らには同じ日の繰り返しが堪へられず、毎日が未知の旅行の期待によつて支へられてゐるのかも知れぬ。
 然し夜の王様は、彼女らがヂオゲネスではないことを見抜いてゐるから、パンパンどもは青天井の明るさと家の暗さを知るだけで、宮殿の生活なぞは知りやしない。王様の構図は夜の宮殿なのだから、無智
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