をくりひろげる。それといふのも、吹雪の姐御にいさゝかの思召《おぼしめ》しが巣食つたからで、配下のチンピラどもにも捨てがたいのが七八名はゐる。肉体を切り売りしてゐる魔窟の姐さんとちがつて、荒んだやうなところはあつても、楽天派で、自然のやうに純粋であつた。
 彼女らは貯金魔だ。もらつた金は貯金して、買ひ物は男にせびる。握つたが最後、自分の金は使はぬといふ頑強な本能をもつてゐる。男に洋服を買はせ、次の男にハンドバックを買はせ、次の男に靴も買はせた。帽子だけが足りない。あすの男に帽子を買はせて揃ふけれども、一時も早く着てみたくて我慢ができぬ。そこで、ちよつとショートタイム、帽子をかせいでくるわ、昼からでかけて、一時間ほど後に帽子を被つて帰つてくるといふ稼ぎ方で、軽快、荒れてるやうで子供のやうな可憐な情感がこもつてゐる。帽子か、帽子は安い、オレが帽子にならう、と最上先生も言ひたいところだけれども、全部がナジミで、夜の王様の貫禄もあることだから、色気ぬきのショーバイだといふ先方の大宣言にも拘らず、全然スタートの恰好がつかないのである。そこで、もつぱら、夜の王様の構図に向つて実際的なスタートを切り、
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