学校卒業の家出娘で、住所もなければ配給もない。後顧の憂ひがないから、快活で、個人主義のカタマリで、姐御といつても便宜上の一機関、仁義も義理も尊敬も愛情もない。それはさうにきまつてゐる。住所も係累もないのだから、いつ、どこへでも飛んで行かれる。どこでも開業できるのだから、たまたま郷に入つて郷に従つてるだけの話だ。
 吹雪の姐御はそれでもサスガに「私たち」といふ複数の言葉を用ひることを心得てゐるが、チンピラどもは一人称の複数などは用ひる場合を知らないやうなものだつた。お客と自分をひとまとめに複数にする精神もない。お客などゝいふものは、いつの誰さ? あゝ、あのアレか、彼女等は男を男として観察するのぢやなくて、蟇口《がまぐち》として観察し、その重量と使ひッぷりに敬意を表する。
 オイランとは全く違ふ。インチキ・バアのインチキ女給とも違ふ。その違ひを決定づけるものは、住所がない、といふこと。いつ、どこへ行つても天地が同じであるといふ風流の本質に詭弁を弄せずして合致してゐるせゐなのである。
 アルコールの餓鬼取引には六ヶ月の期限がついてゐることを重々承知の上で、最上先生が意外、夜の王様の雄大な構想
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