のマーケットは半分店を閉ぢてゐるが、その中の馬小屋を三ツ占めて、先づ上ると、待合室、その次が、伺ひの間と云つて、こゝで神様の高弟が人間と神様との中間的な仙境から冷酷無慙な反射鏡をさしてらして過去の罪障にカシャクなく迫る。すべて罪障が明るみへさらけだされて、自ら痛悔が行はれ、心も洗はれ改まつて赤子の無心に戻ることができたとき、愈々奥の間で神様に対座することができる。
最上清人もそのたゞならぬ御利益を伝へきいたから、未来の運勢、夜の王様の構図に就て、神様の助力を仰ぐことにした。待合室から伺ひの間へ通されると、真ッ白な筒袖の着物をきた背の高い若い男が自然の愛嬌のこもつたニコニコ顔で迎へてくれる。これが神様の高弟で、人間と神様の中間の仙境から反射鏡をさしてらすといふ仙術者、つまり落合天童なのである。
ヤア、しばらく、と最上清人が対座して、タバコをとりだして火をつける。
「あ、いけません、いけません。こゝでタバコをすつてはいけません。この部屋では虚心と充心といふものを行ひますから、あなたはもう外界の生活からカクリされなければいけません。ちよッと、あなた、手相を拝見いたしませう。なるほど、この
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