あげる。失礼だが、あなたのやり方ぢやア、とても三十万ぢやア替玉は見つからねえな。嘘だと思つたら、方々当つてごらんなさい」
「三十万だすぐらゐなら、僕が刑務所へ行つてくるね。僕はすこし睡眠不足でくたびれたから、刑務所で眠るのもいゝ時期だと思つてゐるから」
「なるほど最上先生なら、あそこで安眠できるかも知れねえな。然し、あなた、かりに替玉が刑務所へ行つてくれたつて、こゝの営業が停止されちやア、刑務所入りの方が安くつくやうなものぢやないか。そこんところも、手段を考へておかなきやいけない」
「むろん考へてゐるさ。その考へがなきや、替玉なんか探しやしないね」
と、物事の計画に、思案の数々、深謀遠慮ぬかりのない大哲人のことで、タバコの軽い一服よりもアッサリとした御返事である。
事実に於て最上先生はこの盛り場から郊外電車で四ツ目のところに、階下が八、三、二畳、階上が六畳といふ借家、二家族十人つまつてゐるのを三万円だかの立退料で交渉をすゝめてゐる。つまり先生はそつちの方へ自宅を移して、タヌキ屋の外に自宅営業、もつぱらパンパンと共同戦線で、特別の上客に限つてホテル兼料理屋、その代りパンパンには昼食を
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