てくれ」
「ぢや、マスター、三枚ださう」
「いやなこつた」
「フン、あんた、あんたがボルなら覚えておいで。その代り、あんたが私たちに用があるとき、百枚だしても誰一人ウンとは言はないよ。分らないのかなア、共同戦線といふことが」
なるほど、さうか、と最上清人は考へた。目の玉のとびでる酒を承知でパンパンと共に飲みにくるのは地方から商用できた闇屋とか工場主、事業主、パンパンの心眼、フトコロを知つての上でなければ連れてはこない。着物も買はせ、指環も買はせ、いくらでセビッテも財布のへり目が分らぬやうな上カモに限つて酔はせるために連れてくる。この連中と特別にタイアップする、どうせ危い橋を渡つてゐるのだから、危険は同じこと、太く短くもうけるに限る。彼自身が共同戦線のヨシミによつて安値に遊ぶことができるなら、これ又、特別大いに望むところだと考へた。
「ぢやア、昼だけだぜ。裏口からきて、座敷で静に飲むんだぜ。酒の方でもうけさしてくれなくちやア」
「モチよ。うんと飲んでくれる人だけ連れてくるから。その代り、お食事も出してちようだい」
六・一自粛と同時に街の暴力団狩り、マーケットの親分|乾分《こぶん》の解
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