散、チンピラ共は上ッたりで、
「やア、こんにちは」
タヌキ屋へ三人づれの赤いネクタイのアンちやんが来て、
「こゝぢやア酒を飲ますさうぢやないか。オレたちはどうせアゲられるんだから、道づれにならうぢやないか。一年くらひこむのと、一万円とどつちがいゝね」
最上清人は常に万全の備へをかため、いつ上げられてもいゝやうにお金は隠してある。ヨタモノにたかられるぐらゐならブタバコへはいつてきた方が安上りだといふ計算はハッキリとつくに立てゝあるから、
「あゝさうかい。オレも近々上げられるところだから、ちよッとぐらゐの時間早くつたつて、おんなじだ。ぢやア道づれにならうぢやないか」
ヨタモノは哲学者につきあひはないから、退屈しきつた顔付一つ変へようとせず、念仏みたいに呟いて今にも一緒に出掛ける気勢に煙にまかれて、
「あれ、なんだい。オヂサン、話が分つてゐるのかい。一年の懲役だぜ」
「それぐらゐ、分つてゐる。覚悟の上だから、ショウバイしてゐるのだ。君たちは何をボヤボヤ慌てゝるんだ。こつちは先の先まで見透して、懲役でひきあふだけの計算をたてゝ覚悟の上でやつてることだよ。いつでも道づれになつてやる」
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