升ビンを掴みだして極めて事務的に寝酒をのみ、極めて事務的にヨッチャンをだく。それも亦ビヂネスであつた。即ち肉体のつながりによつて、女中ではなく、ウチの者であり、無給にコキ使ふことができ、行動を制限し、命令し、食べ物を制限することもできる。不満なら出て行け、と言ふ。一方がおのづから時代の英雄だから、一方はおのづから奴隷で、近代人の絶えて現実に知り得ない奴隷女といふ無人格な従属物を知るに至つた。それに対して血も涙も意識する必要がない物品といふ意味だ。
すでに昼すぎる頃からコーヒーといふウヰスキーを飲む餓鬼、ソーダ水の酒を飲む餓鬼、これはもつぱら馬小屋からの落ち武者で、実は単に酒餓鬼の足軽にすぎない。夜になると、奥の茶の間で会社の饗応がある、ブローカーの商談がある、一組小は一万円から大は三万五万ぐらゐ遠慮なくチョウダイする。ウヰスキー一ビン四千円で飲ませるから闇会社の十人ちかい商談になると忽ち五万円ぐらゐになる。高すぎると思つても、二度と来てくれなくていゝよといふ顔付の威厳はテキメンで、時代の英雄、千鬼もおのづから足下に伏す有様である。二週間もたつと又ノコノコ性こりもなく現れて、徒に足下に
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