。ところが新日本の建設誕生といふ極めて新鮮健康なるべき第一節に、別に深遠な思想家でもない呑ン平どもの何割かゞ、彼と同じギリ/\のところへ否応なく追ひつめられてきた。芸のない同類どもがにわかにボーフラと一緒にわきだして裏通りの裏口をウロウロキョロキョロする、とたんに最上清人の方がこの同類から脱退したのは、即ち彼が礼服をきたメフィストフェレスになつたからで、メフィストフェレスといふものは、厭世家で、同時に巨万の財宝を地下に貯へてゐるものなのである。
まさしく彼は資本家になつた。資本家といふものは単なる物質上のことではなくて、精神上の位置であり、つまりアクセクお金をもうけやうともしないのに、お金の方が自然にころがりこんでくる。酒さへ置けばお客の方がガツガツ食ひついてくる。ミミズをつけて糸をたれる、とたんに魚がくひつく、苦心も妙味もない、糸をたれゝば食ひつくだけで、たゞもう無限の同一運動の反復があるばかり、面白いよりもイマイマしいぐらゐ。然し、イマイマしいとか、ウンザリするとか、変に厭世的な気持が深まるやうで、内実はその満足が病みつきとなり、いつとなく思想が変つてゐるものだ。
お店の趣向を
前へ
次へ
全163ページ中105ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
坂口 安吾 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング