も救はれ先生も亦救はれる。つまり学問てえものはイキなものなんだな。ヤボを憎む、これが学問の精神ぢやありませんか。私みてえなヤボテンはビール三百五十円、お酒一合二百円、驚き、慌て、かつ、腹を立てますよ。よつて、水を下さい、と至つて有りふれた皮肉の一つも弄するやうなサモシイ性根になつてしまふ、然しその時天下第一の哲学者最上先生ともあらう御方が、ヒヤカシはいけない、ショーバイだから、そんな手はないね。ミズテン芸者も気のきいたのは、ウチの水道栓は酒瓶に沿つて流れてゐるからアルコールが沁みてゐるよ、ぐらゐの返事は致しますよ。ビール三百五十円、お銚子二百円、さすがに見上げた度胸だなア。マーケットの俄か旦那の新興精神ぢやアこゝまで向ふ見ずに威勢を張る覚悟はないから、これは学の力です。一朝にして高価のわけぢやアない、昔から高い、益々高い、流行を無視して一貫した心棒のあるところがサスガだけれど、然し、あなた、たまたま私みたいなヒヤカシの風来坊が現れる、これも浮世のならひですから、風来坊に対処してイキに捌《さば》く、これも亦学のネウチなんだなア。学問は救ひでなきやいけません。血も涙もないてえのは美事なこと
前へ 次へ
全163ページ中103ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
坂口 安吾 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング