は高いぜ」
「お酒はいくら?」
「お銚子二百円」
「ビールは?」
「三百五十円」
「ウヰスキーは?」
「一パイ二百円」
「ぢやア、私はオヒヤ。水道料は闇の仕入れぢやないから、目の玉の飛びでることはねえだらう。然し御直々の御足労ぢやア、サービス料も相当だらうから、私が自分で運びませう。コップもかうして握つて甜《な》めりや、ラヂウム程度にスリへるだらうから、然し、握らねえで、甜めねえで飲むてえわけには行かねえだらうな。ストロー持参で水を飲みにくるてえことにしたら、一パイ十円で、いかゞでせう」
「ヒヤカシは止して貰ひたいね。うちはショウバイだからね」
「ヒヤカシは止して貰ひたい、ショーバイだから。いけねえなア、最上先生。あなた、その返事はどこの飲み屋のオヤヂでもそんな時に答へるであらうお極りの文句ぢやありませんか。最上先生ともあらう方が遂にそれを言ふに至るとは、私は学問のために悲しいね。それは、あなた、学問なんざ、つまらねえものだけれども、なぜなら腹のタシにならねえからな、然しあなた、芸のないお極り文句を言はねえところに学問のネウチがあるんで、私の思ひもよらない返答をしてくれることによつて私
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