なるほどねえ。アンマは指さきの商売だし、むしろカンだけをたよりにはじくから、これは出るかも知れないね」
 こう言って武芸者のように考えこんでしまう人物もいる。いかにも真剣そのものである。
「そうだ。こいつはいいことをきいたね。オレも目を閉じてやってみよう」
 生き生きと目をかがやかせてヒザをうつ人物もいる。いずれも私の本意たる風流を解せざることはなはだしく、深刻きわまる反応であった。
 しかし、アンマのパチンコが彼らをかくも感奮せしめるところを察するに、彼らはすべて敗軍の将なのだろう。私はパチンコをやらない。月に百円のゴルフをたのしむ私は、茶道をたのしむこじきのようなものであろう。

     いつも大投手がいない町

 桐生は四百年前に織物都市として計画的につくられた時から小大名の支配をうけない天国で、日本全土を相手に取引と金勘定で明け暮れしてきた都市である。町ができた時から東における最も大阪的なところで、今日に至っても全くの小商工業都市で各人腕にヨリをかけ隣人親友を裏切って取引と金勘定に明け暮れしているところだ。
 物価は物すごく高い。それを知らないのは土地の人だけだ。私が伊東から
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